こんにちは。立川のネコ好き税理士藤本です。
前回までは簡易課税や原則課税・納税義務者などについて確認していきました。
この辺りは、消費税の計算を行う前の前提条件(であり、後出しが許されないところの多い一方通行)で大切な面が大きく出ていました。
それでは、実際に前提条件を決めた上で注意する点などはあるのでしょうか
Contents
棚卸資産がある場合、消費税の調整がある場合がある!
概要
飲食店や雑貨屋などの棚卸資産がある事業を行っている場合、消費税で棚卸資産の調整の規定の適用があります。
期首・期末棚卸資産に対して、消費税の調整が発生する規定ですね。
棚卸資産って?
棚卸資産とは、飲食店の食材や雑貨屋さんなどの商品など、仕入れた資産のことを指します。
棚卸資産については、以前の記事でも軽く触れていますので、併せてご確認下さると幸いです。
消費税の棚卸資産の調整の内容
概要
事業者が棚卸資産を有する場合において、免税事業者から課税事業者になった場合又は課税事業者から免税事業者になる場合には、期首・期末棚卸資産に対して消費税の調整が加えられる。
適用条件
免税事業者から課税事業者になった場合又は課税事業者から免税事業者になる場合
適用資産
期首・期末棚卸資産
適用内容
免税事業者から課税事業者になった場合
期首棚卸資産に対して、税率を乗じて算出した金額を控除対象仕入税額に加算する(消費税負担が軽くなる)
課税事業者から免税事業者になる場合
期末棚卸資産に対して、税率を乗じて算出した金額を控除対象仕入税額から控除する(消費税負担が重くなる)
免税事業者から課税事業者になる場合
税金は多く払うの?少なくなるの?
免税事業者から課税事業者になった場合には、消費税負担が軽くなり税金が少なくなる調整となります。
調整内容
前年が免税事業者で今年が課税事業者の場合には、期首棚卸資産に対して税率を乗じた金額も今年の支出に係る消費税として計算を行うことが出来ます。
計算例
免税事業者から課税事業者になり、以下の条件の場合
期首棚卸資産:110万円(消費税10万)
売上:220万円(消費税20万)
税額:収入に係る消費税20万円-棚卸資産の調整10万円=納付税額10万円
開業から数年たった辺りが注意!
開業年度・開業2年目は消費税の免税事業者であり、それ以後、課税事業者になるケースが多くあります。
免税事業者から課税事業者への変更へのタイミングで注意するようにしましょう。
課税事業者から免税事業者になる場合
税金は多く払うの?少なくなるの?
課税事業者から免税事業者になった場合には、消費税負担が重くなり税金が多くなる調整となります。
調整内容
今年が課税事業者で来年が免税事業者の場合には、期末棚卸資産に対して税率を乗じて算出した金額は、今年の支出に係る消費税に含めることが出来ません。
計算例
今年が課税事業者で来年が免税事業者で以下のような場合
期末棚卸資産:110万(消費税10万)
支出合計:220万(消費税20万)
売上:220万円(消費税20万)
納付税額:売上に係る消費税20万-(支出に係る消費税20万-期末棚卸資産に対する消費税10万)=納付税額10万円
売上が下がった年がある場合に注意!
免税事業者になる場合は、2年前の消費税の発生する収入が1,000万円以下になった場合に該当します。
どこかで、売上が減少した年がある場合には、1年だけ免税事業者に該当する年が出てくる可能性があるので注意です。
令和3年の年末に影響があるかもしれない
今年はコロナの影響で売上が全体的に減少し、給付金で利益を確保している方もいるのではないでしょうか。
給付金には消費税が発生しないため、令和4年の消費税の判定時に、売上のみで計算したら収入が1,000万円以下になっているケースも考えられます。
その場合、令和4年のみ免税事業者となり、令和3年の期末棚卸資産に対して調整が入るので注意です。
どうしてこんな特例があるの?
棚卸資産は、仕入れた年において計算を行う
消費税の計算については、仕入れた時において金額を算入します。
例えば、令和元年に110万の棚卸資産を仕入れたら、令和元年において支出に係る消費税として110万円を計算します。
しかし、前年が免税事業者で今年が課税事業者の場合には、以下のようなことが起こってしまいます。
調整がなかった場合
免税事業者において仕入れた棚卸資産110万円→免税事業者なので、特に考慮なし
前期に仕入れて今年繰り越された棚卸資産を220万円で売却→課税事業者なので、20万円の消費税を納付しなければならない。
結果:納付すべき消費税額20万円
年を跨いで免税事業者→課税事業者になったせいで、本来消費者が負担すべき消費税を事業者が負担する羽目になってしまう。
調整があった場合
免税事業者において仕入れた棚卸資産110万円→免税事業者から課税事業者になったので、今年において10万円を消費税の計算で加味する。
前期に仕入れて今年繰り越された棚卸資産を220万円で売却→課税事業者なので、20万円の消費税を預かる
結果:納付すべき消費税額・収入に係る消費税額20万円-支出に係る消費税額10万=納付税額10万円
売上に係る消費税と支出に係る消費税を適切に対応させる
棚卸資産は、売上に係る消費税と支出に係る消費税がダイレクトに直結する関係にあります。
そのため、年を跨いだせいでいずれかが全く考慮出来なくなってしまうと、消費税の税負担が不当に増減してしまうことも。
これらを防ぐため、調整の規定が設けられているのですね。
消費税はダイレクトに影響してくるので注意
所得税の繰り入れと一緒に意識しよう
所得税の確定申告時、期首棚卸資産・期末棚卸資産を繰入繰延すると思います。
その際、消費税の調整も一緒に意識するようにしましょう。
食材の場合には、軽減税率が適用されるので注意
飲食店など、棚卸資産が食材の場合には、通常通り軽減税率が適用されるので注意です。
消費税はダイレクトに計算するので影響が強い
消費税の計算は、収入に係る消費税から支出に係る消費税を控除して計算が行われます。
この棚卸資産の調整についても、支出に係る消費税がダイレクトに影響してくるので、税額に強く影響を与えることに。
税額・還付金額が万円単位で変わる可能性も十分あるので気を付けましょう。
今年はコロナの影響で、特例もあるので要注意
コロナの特例で今年のみ課税事業者になる場合、両方ともかかってくる
今年はコロナの特例で、今年のみ課税事業者の選択をして、還付を受けることが可能になりました。
その場合
となり、先程紹介した調整が両方とも発生します。
前述の通り、影響が大きいので注意しましょう。
より多く還付を受けられる
コロナの影響を受けて売上が減少している場合、仕入の棚卸資産の金額や期末棚卸資産も減少していることが想定されます。
去年から繰り越されてきた期首棚卸資産に対する調整も加味すると、この調整を意識した方がより多くの還付を受けられる可能性が高いです。
忘れずに検討するようにしましょう。
当事務所では、来年に申告する確定申告に対して、消費税の還付金まで考慮した試算を行っております。
もしよろしければ、お気軽にお問い合わせ下さればと思います。
まとめ
- 免税事業者と課税事業者の変更のタイミングで棚卸資産に対して調整がある
- 免税事業者から課税事業者の場合は税額負担が軽くなる減税
- 課税事業者から免税事業者の場合は税額負担が重くなる増税
- 今年のコロナ特例と組み合わせると、発生可能性が高く、より多くの還付金を受けることの出来る可能性があるので注意
このページの執筆者
立川の個人・相続税特化の20代税理士 藤本悟史
※内容に関する法令等は、更新日による施行法令を基に行っております。