前回は、前年の特例について紹介していきました。
基本的には、2年前の売上が1,000万円を超えているかどうかで消費税の納税義務者になるかどうかを判断するのですが、1,000万円以下の場合であっても
- 課税事業者の選択をして納税義務者になる
- 前年の半年間の売上・給与支払額で納税義務者になる
2種類の特例がありました。
今回は、個人に対して発生するもう1つの特例、相続があった場合の消費税の納税義務者の特例について解説していきます。
Contents
相続をキッカケに事業を始めたり、規模が大きくなったりしたら要注意!
相続年とその翌年及び翌々年には、相続の特例がある
相続により、亡くなった方の事業や不動産などを引き継ぎ、引き継いだ方が新しく事業を始める場合には、引き継いだ方の2年前の売上はないので0円となります。
前々回の内容に沿って行くと、2年前の売上が1,000万円以下なので納税義務はなさそうですが
相続で亡くなった方の事業を引き継いだ場合には、消費税の納税義務者に該当する特例があります。
趣旨としては、亡くなった方が消費税の納税義務者になるぐらいの規模で事業を行っていたのだから、それを引き継いだなら、当然消費税の納税義務者になるぐらいの規模はありますよね、といったものです。
相続があった場合の消費税の納税義務者の特例
概要
相続により、亡くなった方の事業を引き継いだ場合には、納税義務者になる特例がある
判定金額
相続年
亡くなった方又は引き継いだ方のいずれかの2年前の売上が1,000万円を超える場合
相続の翌年・翌々年
亡くなった方と引き継いだ方の2年前の売上の合計が1,000万円を超える場合
それ以降
引き継いだ方の2年前の売上が1,000万円を超える場合(特例ではなく、通常の2年前の判定に戻る)
亡くなった方が受けていた特例
課税事業者の選択や前年半年間の特例などは、引き継いだ方には適用されない
相続年で消費税の納税義務者になる特例
概要
相続年については、引き継いだ方だけではなく、亡くなった方の売上も考慮して消費税の納税義務者に該当する場合があります。
相続年では、亡くなった方か事業を引き継いだ方のどちらかの2年前の売上が1,000万円を超えている場合には、引き継いだ方が消費税の納税義務者に該当することになります。
どちらか片方の2年前の売上1,000万円を超えていたら注意!
引き継いだ方が、その事業を引き継ぐことで初めて事業を開始した場合には、2年前の売上は0円ですので、本来ならば消費税の納税義務者にはなりえません。
しかし、亡くなった方の2年前の売上が1,000万円を超えている場合には、引き継いだ方も消費税の納税義務者に該当し、相続年(開業年)から消費税について検討していかなければなりません。
開業年だし、今まで会社員だったから消費税については検討しなくても大丈夫!と思っていたら、実は消費税を納めなければならなかった!という事態も少なくないので要注意です。
具体例
亡くなった方の2年前の売上1,200万・引き継いだ方の2年前の売上0
亡くなった方の2年前の売上が1,000万円を超えているため、引き継いだ方は相続年から消費税の納税義務者に該当します。
亡くなった方の2年前の売上600万・引き継いだ方の2年前の売上600万
亡くなった方の2年前の売上も引き継いだ方の2年前の売上も1,000万円以下のため、引き継いだ方は相続年は消費税の納税義務者に該当しません。
亡くなった方の課税事業者の特例や前年の特例は関係ない
前々回や前回で紹介した、課税事業者の選択や前年半年間の売上の特例などで、亡くなった方が消費税の納税義務者になっている場合、「あれ、もしかしてそれも引き継ぐのかな?」と心配になるケースも。
亡くなった方が受けていたこのような特例については、引き継がれないので、特に考慮しなくても大丈夫なのでご安心を。
逆に、引き継いだ方が課税事業者の選択を受けたい場合には、亡くなった方が課税事業者の選択を受けていても、改めて手続きを行わなければいけないので注意です。
相続年の翌年及び翌々年で消費税の納税義務者になる特例
概要
相続年の翌年及び翌々年についても、引き継いだ方だけではなく、亡くなった方の売上も考慮して消費税の納税義務者に該当する場合があります。
翌年及び翌々年については、引き継いだ方と亡くなった方の2年前の売上を合算して判定を行います。
2年前の売上を合算して判定する!
相続の翌年及び翌々年については、事業を引き継いだ方の2年前の売上と亡くなった方の2年前の売上を合計して、1,000万円を超えていれば消費税の納税義務者に該当します。
相続年とは異なり、両方とも1,000万以下であっても、合算して1,000万円を超えれば消費税を検討する必要があるので注意です。
具体例
亡くなった方の2年前の売上1,200万・引き継いだ方の2年前の売上0
両者の合計が1,000万円を超えている(1,200万+0=1,200万)ので、引き継いだ方は消費税の納税義務者になる
亡くなった方の2年前の売上600万・引き継いだ方の2年前の売上600万
両者の合計が1,000万円を超えている(600万+600万=1,200万)ので、引き継いだ方は消費税の納税義務者になる。
相続年では、納税義務者にならなかったケースなので、注意です。
亡くなった方の2年前の売上500万・引き継いだ方の2年前の売上400万
両者の合計が1,000万円以下(500万+400万=900万)なので、引き継いだ方は消費税の納税義務者にならない
それ以降
相続年の3年目以降は、特例の適用外となり、引き継いだ方の2年前の売上により納税義務者を判定します。
というより、3年目になると、2年前が完全に引継が終わって売上が合算した後の期間に入るので、実質的に引き継いだ事業と元々の事業との合算という形になります。
相続人が複数人いる場合は?
納税義務の判定に使用する金額は、自分が引き継いだところのみ
相続人が複数人いる場合には、自分が引き継いだ事業所に係る金額のみ、納税義務者の判定に使用します。
無条件に亡くなった方の全ての売上を加味する訳ではないので注意です。
具体例
A取得:駐車場・2年前の賃貸料300万
B取得:店舗賃料・2年前の賃貸料1,200万
Aは1,000万円以下なので、納税義務なし
Bは1,000万円超なので、納税義務あり。
未分割の場合は?
相続人が複数おり、分割協議が整っておらず、相続人が共同して事業を営んでいる場合には、亡くなった方に対応する2年前の売上は法定相続分で各相続人に割り振ります。
また、消費税の考え方として、その年が始まる前には自分が納税義務者かどうか分かっていなければならない、というものがあります。
消費税の法令関係などに従って計算した場合には、その年中に遺産分割協議がまとまったとしても、納税義務者の判定をやり直す必要はないとの文書回答事例が公表されています。
この辺りは判断が非常に難しいところですので、税理士さんに相談されることを推奨します。
相続の際は消費税の納税義務者判定が複雑になるため、注意!
相続が発生した際には、消費税の知識だけではなく相続税の知識も併せて納税義務者の判定をしなければなりません。
複数税法を跨ぐかなり複雑な問題になりますので、相続の専門知識だけではなく、消費税の専門知識も併せて必要になります。
弊事務所では、相続専門ではなく、幅広く税目を跨って考慮しますので、相続が発生した際には是非1度ご相談下さい。
まとめ
- 相続により事業を引き継いだ場合には、納税義務者の特例がある
- 相続年は、亡くなった方か引き継いだ方のいずれかで2年前の売上が1,000万円を超えているかで判定
- 翌年及び翌々年は、亡くなった方と引き継いだ方の2年前の売上の合計が1,000万円を超えているかで判定
- 相続人が複数人いる場合には、分割のタイミングで判定金額が変化する
このページの執筆者
立川の個人・相続税特化の20代税理士 藤本悟史
※内容に関する法令等は、更新日による施行法令を基に行っております。