ネコの手を借りない規定
前回までは、以下のような適用を受けるためには相続税の申告書を提出する必要がある規定について紹介してきました。
- 相続税に係る配偶者の税額軽減
- 小規模宅地等の特例
- 国等に寄付した場合の相続税額の特例
しかし、やはり相続税の申告書を提出するのは大変。
そこで誰もが考える訳です。
申告書を提出しなくても適用を受けることが出来る軽減規定はないのか!?
その希望、現実に致しましょう!
Contents
申告書を提出しなくても適用を受けることが出来る税額軽減規定!
相続税は、亡くなった方が亡くなった時に所有していた全ての財産に対して課税されます。
その中の1つに
亡くなった方に係る生命保険金
があります。死亡保険金で、被保険者が亡くなった場合には、保険金受取人に対して生命保険を支払う、という日本では割と身近な制度ですね。
実は、この生命保険金には個別に一定額まで非課税となる軽減規定が設けられています
亡くなった方に係る生命保険金の取り扱い
死亡により支払われる保険金・死亡保険金については、その保険金の受取人に対して、その保険金額に相続税が課税されます。
基本的には、受取人が自動的に取得者になる珍しいもので、遺産分割協議書などに記載はしないので注意。
生命保険金には非課税規定がある
概要
死亡により支払われる生命保険金については、一定金額まで非課税規定が適用されます。
適用財産
死亡により支払われる生命保険金
適用条件
死亡により支払われる生命保険金の受取人が相続人であること
非課税金額
法定相続人の数×500万円
生命保険金の非課税の金額はいくら?
適用を受けることが出来るのは相続人のみ!
死亡保険金については、上記のように非課税の規定が定められています。
配偶者軽減は配偶者のみ、小規模宅地等は親族のみ、といったように、取得者の関係性に条件があり
生命保険金の非課税については、相続人でなければ適用を受けることが出来ません。
生命保険金の受取人を(相続人でない)孫にしていた場合には、適用を受けることが出来ない、ということですね。
生命保険金は相続人関係なく、保険金受取人に対して取得させるので、遺言がない場合でも相続人以外が財産を取得する状況が起こりえます。
適用関係の把握は比較的楽
死亡保険金の受取人が相続人
であれば、遺産分割協議書の作成も必要なく、基本的に適用を受けることが分かるので、他の規定に比べると適用関係の把握は比較的楽です。
遺産分割協議書の必要性がない点がとても楽ですね。
このように把握が比較的楽なため、私の事務所では、生命保険金の非課税の規定を受ける場合には、非課税金額に応じて一定額を割引したりしています。
それぐらい楽です
非課税の金額は全員で共有する
法定相続人の数が2人ならば、1,000万円までは生命保険金に相続税は課税されず
法定相続人の数が3人ならば、1,500万円までは生命保険金に相続税は課税されません。
この非課税の金額は、財産を取得した人全員で共有します。
法定相続人の数が2人で、そのうち1人だけが生命保険金を1,000万円を取得した場合
取得者が1人だけなので1,000万円のうち500万円までは相続税が発生しない……という訳ではなく
法定相続人の数が2人なので1,000万円までは生命保険金が非課税になり、1人が取得した生命保険金1,000万円全てに相続税が課税されません。
とりあえず、1人の持ち札が500万円なのではなく、非課税金額は合計額を全員で使用出来る感じです。
生命保険金を取得する相続人が複数いる場合は按分する
法定相続人の数が2人で、1人が500万円・もう1人が1,000万円の財産を取得した場合、取得した割合に応じて非課税金額を按分します。
詳しくは具体例で見ていきましょう
具体例で非課税金額を確認しよう
前提
法定相続人の数は2人=非課税金額は500万円×2=1,000万円
を前提とします。
Aが生命保険金1,000万円・Bが取得しない場合
Aの課税生命保険金:1,000万円-非課税額1,000万円=0円
Aの取得する生命保険金1,000万円に対しては相続税は課税されません
Aが生命保険金500万円・Bが取得しない場合
Aの課税生命保険金:500万円-非課税額500万円(マイナスにはならないため)=0円
Aの取得する生命保険金500万円に対しては相続税は課税されず、0円を限度としてマイナスにはならないため残りの非課税500万円に対しては特に考慮されません。
Aが生命保険金1,500万円・Bが取得しない場合
Aの課税生命保険金:1,500万円-非課税額1,000万円=500万円
Aの取得する生命保険金1,500万円のうち、非課税額を超える500万円に対して相続税が課税されます
Aが生命保険金750万円・Bが500万円取得する場合
それぞれの非課税金額
生命保険金合計:1,250万円
A非課税金額:1,000万円(全体の非課税金額)×750万円(A取得金額)/1,250万円=600万円
B非課税金額:1,000万円×500万円/1,250万円=400万円
それぞれの課税される生命保険金の金額
Aの課税生命保険金:750万円-非課税額600万円=150万円
Bの課税生命保険金:500万円-非課税金額400万円=100万円
それぞれ、超える部分の金額に相続税が課税されます
基礎控除以下なら相続税の申告書の提出は必要なし!
生命保険金の非課税金額は、適用を受けることに相続税の申告書の提出は必要ありません。
非課税金額控除後の遺産総額が基礎控除額以下ならば、相続税の申告書自体提出の必要性がなくなります。
具体例は以下の通り
- 遺産総額6,000万円(うち生命保険金2,000万円)-生命保険金の非課税2,000万円=4,000万円
- 4,000万円-基礎控除額5,400万円→0円以下のため、相続税の申告書の提出は必要なし
とはいえ、基礎控除額ぎりぎりではあるので、相続税申告あるんじゃないですか??という連絡書類である「税務署からのお尋ね」が来る可能性も高いです。
非課税で基礎控除以下になる場合には、相続税の申告書の提出はお勧めします。
あれ、そもそも、生命保険金って相続財産になるの?
前述の通り、相続税は、亡くなった方が亡くなった時に所有していた財産の全てに課税されます。
……ん?ちょっと待って下さい。
亡くなった方が亡くなった時に所有していた財産
生命保険金は亡くなった後、受取人に支払われて、亡くなった方は一度も自分の手にしないことから、相続財産ではないのでは⁉
となってしまうので、何と生命保険には個別に相続財産とみなす規定が設けられています。
色々と特殊な事情がある生命保険金。その特殊な取扱いについては、次回詳しく解説します!
このページの執筆者
立川の個人・相続税特化の20代税理士 藤本悟史
※内容に関する法令等は、更新日による施行法令を基に行っております。