前回は消費税の納税義務者に該当する場合について解説していきました。
2年前の売上が1,000万円を超えている場合には、その年1年間は消費税を納める義務がある……
しかし、逆に言えば2年前の売上が1,000万円を超えていなければ、消費税を納める義務がありません。消費税を納めたいけど、1,000万円以下だから納めることが出来ない……
解決方法はあるのでしょうか。
Contents
消費税を納付したい時はこれ!
消費税の納税義務者になる書類・消費税課税事業者選択届出書
2年前の売上が1,000万円以下だから消費税を納める義務はないけど、何とか消費税を納めたい……
そんな希望を叶える書類がこちら!
消費税課税事業者選択届出書!
こちらの書類を納税地の所轄税務署長に提出することで、消費税の納税義務者になることが可能!
消費税を納めたい方もこれで安心
消費税を納めたい時なぞ訪れない
売上1,000万円以下だけど、消費税納めたい!何が何でも税金納付したい!!!
何て方はいないと思います。もし、いらっしゃれば一報ください。訂正します。
消費税を納付するというのは、単純に手元のキャッシュが減る行為ですし、対価性もほぼありませんので、基本的にしなくて良いのにわざわざしたがる方はいらっしゃいません。
じゃあ、上記届出書は使用する機会が全くないのかと言えば、実はそうではありません。
納税義務者になって、消費税の還付を受けよう
課税期間中に消費税を払う過ぎている場合、消費税の還付を受けることが出来ます。
但し、消費税の還付は消費税の納税義務者しか受け取ることが出来ません。
本来ならば、消費税の還付を受けることが出来るにも係わらず、2年前の売上が1,000万円以下で消費税の納税義務者ではないから消費税の還付を受け取ることが出来ない。
消費税課税事業者選択届出書はそんな状況の際に、消費税の納税義務者になることで、消費税の還付を受けることが出来るようになるということなのです。
ここまでのまとめ
- 消費税の納税義務がない場合であっても、消費税課税事業者選択届出書を提出すれば納税義務者になれる
- 但し、納付しなくて良いのにわざわざ消費税を納付するメリットはほぼない
- 納税義務者にならなければ消費税の還付は受けられない。
- 還付を受けるために納税義務者になる場合が多い
消費税課税事業者選択届出書の概要
書類名
消費税課税事業者選択届出書
入手方法
国税庁HPなどからダウンロード可能
提出先
納税地の所轄税務署長
提出期限
納税義務者になりたい年の前年12月31日まで
例えば、令和3年の1年間を納税義務者になりたい場合には、令和2年12月31日までに提出しなければなりません。
但し、開業年だけは、開業年中に提出すればOK
効力の範囲期間
適用をやめようとする手続きを受けるまでずっと
1度提出したら、特別な手続きをするまで永遠に続きます
消費税に還付なんて発生するの?
還付が発生する状況はこんな時
消費税の計算というのは、収入に係る消費税(預かった消費税)から支出に係る消費税(支払消費税)を差し引いた金額を持って、納付税額にします。
例えば、売上110万(うち消費税10万)・支出55万(うち消費税5万)の場合には、10万-5万=5万の消費税納付になります。
収入に係る消費税よりも、支出に係る消費税の方が金額が大きい場合、消費税の払い過ぎということで、差額が還付されます。
例えば、売上55万(うち消費税5万)・支出110万(うち消費税10万)の場合には、5万-10万=△5万となり、5万円の消費税が還付されます。
但し、本来経費には、人件費や減価償却など、消費税の発生しない経費が数多くあるので、普段、消費税の還付が発生する事は多くありません。
高額な設備投資を考えている時
事業拡大や古くなった設備の交換などで、高額な支出を検討している場合、その1年間のみ、支出した消費税が多くなる時が出てきます。
このような、多額の支出を臨時的に行った場合、その1年間でピンポイントで消費税の還付が発生する状況が出てくる時があります。
消費税が課税されない収入が多くを占めている場合
消費税が課税されない収入が多くを占めている場合、還付を受けることが出来る場合があります。
今年は特に、新型コロナウィルスの影響で営業自粛をして給付金等をもらって運営していた場合が該当します。
令和2年は新型コロナウィルスの影響を強く受けた1年間で、営業自粛により売上が減少した事業者の方も少なくありません。
その支援策として、持続化給付金初め様々な給付金が給付されました。
この受け取った給付金に対しては、消費税は発生しません。
売上の代わりに給付金収入になった場合、収入に係る消費税が減少するので、支出に係る消費税の金額が上回り還付を受けることが出来る場合も。
どちらにしろ、還付は経常的には訪れずに臨時的に訪れることが多い
消費税の還付は、上記のように普段はあまり発生せず、臨時的に発生する事がほとんどです。
また、課税事業者選択届出書は、1年間が始まる前に提出が求められるため、高額な設備投資などを検討している場合には、先出しで提出する必要があります。
その後、やっぱり設備投資をやめた、という場合であっても、取り消すことは出来ません。
必ず、慎重に検討して決定しましょう。
課税事業者選択届出書で納税義務者になったら、自然発生に比べて様々制限が設けられる
適用をやめようとする場合には、消費税課税事業者選択不適用届出書の提出が必要
課税事業者選択届出書を提出して納税義務者になった場合、納税義務者でなくなるためには、納税地の所轄税務署長に対して課税事業者選択不適用届出書を提出しなければなりません
それを提出しない限り、来年も再来年も永遠に消費税の納税義務者に該当し続けます。永久に続くストーリー。
消費税課税事業者選択不適用届出書も、先出しが必要
不適用届出書についても、適用をなくしたい年の前年中に提出しなければなりません。
例えば、令和3年には適用を失くしたい場合には、令和2年12月31日までに不適用届出書を提出しなければなりません
提出を忘れたら、1年プラスして納税義務者になってしまうので、非常に注意です。
2年は消費税の納税義務者にならなければいけない
適用をなくす不適用届出書ですが、納税義務者になった2年目以降でなければ提出することは出来ません。
ざっくりいうと、選択届出書で納税義務者になった場合は、初年度と次年度、最低でも2年は納税義務者でなければなりません。
来年1年間だけ納税義務者になろう!というのは出来ないので注意。
提出する場合は、2年後まで見据えた検討を
上記の通り、課税事業者選択届出書で納税義務者になった場合、2年間は消費税の納税義務者を継続しなければなりません
来年、高額な設備投資を控えてるから納税義務者になろう!と考えて提出したところ、2年目に大幅な売上増額になって、1年目2年目トータルで納付税額の方が大きくなってしまった、ということも少なくありません。
また、還付・納付だけでなく、消費税特有の経理処理の対応も必要になり事務負担も大きくなります。
かなり強い影響力を持っていますので、必ず深く慎重に検討するようにしましょう。
それぞれの届出書の名称の注意
納税義務者になる際に提出する書類は
消費税課税事業者選択届出書
その届出書の効力を失くす書類は
消費税課税事業者選択不適用届出書
パッと見同じに見えるので、注意しましょう。
消費税課税事業者届出書ではない
似た名称の書類で、消費税課税事業者届出書というものがあります。
こちらは、売上が1,000万円を超える等により、自然に納税義務者になった場合に提出が必要になる書類です。間違えて提出した場合、適用を受けることが出来ないので注意
売上が1,000万円を超えるなど、自然に納税義務者になった際に提出する書類は
消費税課税事業者届出書
納税義務者になる際に提出する書類は
消費税課税事業者選択届出書
その届出書の効力を失くす書類は
消費税課税事業者選択不適用届出書
パッと見間際らしいので注意しましょう。
まとめ
- 還付を受けるためには納税義務者になる必要がある
- 特別に納税義務者になるためには、消費税課税事業者選択届出書の提出が必要
- 還付は、収入に係る消費税よりも収入に係る消費税が多い場合で、臨時的に発生する事が多い
- 消費税課税事業者選択届出書を提出した場合、最低でも2年間は納税義務者にならなければならない
- 適用をやめる時は、消費税課税事業者選択不適用届出書を提出しなければならない
- 必ず、最低でも2年先まで考慮して慎重に検討する
このページの執筆者
立川の個人・相続税特化の20代税理士 藤本悟史
※内容に関する法令等は、更新日による施行法令を基に行っております。