前回は生命保険金に係る非課税金額の規定について確認していきましたね。
配偶者軽減や小規模宅地等の特例のように大きく相続税負担を軽減することが可能ながら、適用に申告書の提出が必要ないという、かなり珍しい軽減措置になっています。
上記の他の規定とは異なり、非課税適用後の金額が基礎控除額以下ならば、申告書の提出自体も必要なくなる・適用関係も比較的把握しやすいなど、手続き負担も他と比べるとだいぶ楽な印象
……あれ、でも待って下さい。相続税が課税される財産は、「亡くなった時に亡くなった方が所有していた財産」
生命保険金は亡くなった後に支払われるものなのだから、そもそも相続税が課税されないのでは⁉
Contents
生命保険金には相続税が課税されます
生命保険金は相続財産とみなされる
相続税が課税される財産は前述の通り、亡くなった方が亡くなった時に所有していた財産になりますが、生命保険金については、相続税は課税されます。
少し特殊な取り扱いになりますが、原則的な考えとは別個で
生命保険金については相続税を課税します!という規定が定められているのですね
本来は相続財産ではないけれど、生命保険金は相続財産とみなして課税します。そんな風に名指しで定められているので、生命保険に対しては相続税が課税されることとなります。
その代わりと言っては少し語弊がありますが、生命保険には非課税の規定もありますので、税負担は他の財産と比べるとかなり軽減されます。
生命保険金の取り扱い・基礎的な内容
生命保険金の課税対象
死亡に伴って支払われる生命保険金
税額軽減規定
生命保険金に対しては、相続人の人数×500万円まで非課税の規定があります。
課税される人
生命保険金の契約上の受取人
相続人とそれ以外の方との差異
相続人に対しては上記の非課税規定が適用されますが、それ以外の方の場合には適用されません。
生命保険金に感じられるけど、実は異なるもの
入院給付金など、病気に対する保険金
保険契約の中には、死亡時に支払われるものだけではなく
- 入院1回当たり5,000円の給付
- 手術1回当たり10万円の給付
など、病院生活や治療に対する補償する特約も多くサポートされています。
入院中に死亡するなどのケースで、これらの特約に係る給付金が死亡保険金と一緒に支払われるケースは少なくありません。
死亡保険金と一緒に支払われますが、これらの特約に係る保険金は、相続税的には生命保険金とは異なります。
入院給付金等の取扱い
基本的には、預貯金等などの他の一般的な財産と同様に取り扱われます。
取得者は自動的に決まりませんので遺産分割も必要で、非課税規定もありませんので注意しましょう。
生命保険金については、遺産分割・遺言の対象にならない
取得者は契約上の受取人が自動的に設定
相続の時に発生するものと言えば、誰がどの財産を取得するかの遺産分割協議や遺言ですね。
しかし、生命保険金は契約上の受取人が自動的に取得者となり、これらの対象とはなりません。特に何もしなくても、取得者が決定されます。
受取人以外の別の人が取得したい場合でも、出来ないので注意。
孫や内縁の妻など、相続人でない方でも受取が可能
遺産分割協議や、配偶者や子供などの相続人でなければ参加できず、財産を取得することは出来ません。
但し、生命保険金は上記の通り、取得者は自動的に決定されるため、相続人以外の方も取得することが可能です。
生命保険金は遺産分割の際に考慮されない財産?
遺産分割は、民法上は遺言でもらった財産や生前贈与も加味して行う
遺産分割協議を行う場合、民法上では、遺言でもらった財産や生前贈与により取得した財産も加味して、平等になるように考えます。これを特別受益と言います。
生命保険金もその特別受益の考慮対象になりそうですが……?
生命保険金は、特別受益には含まれない!
実は、生命保険金は、遺産分割の際に考慮される平等に分割するための財産には加味されません。
例えば、預貯金が3,000万円・Aさんが生命保険金を1,000万取得・Bさんは生命保険金なしの場合
預貯金はAさん1,000万円・Bさん2,000万円と分けると
- Aさん取得額2,000万円:生命保険金1,000万円+預貯金1,000万円
- Bさん取得額2,000万円:預貯金2,000万円
と分けると平等になります。
しかし、民法上はこのような考え方はせず、生命保険料は考慮されないので、民法上の平等だと預貯金を半分ずつ分けるということになります。
財産を多く配偶者に遺したい!だけど、他の相続人と仲が悪く、法律上の平等を主張されてしまったら、遺言を書いたとしても配偶者に遺すことの出来る財産はどうしても少なくなってしまう。
そんな時、生命保険金は有効となります。
- 取得者も自動的に決まるので、遺産分割が整わずに生活資金の困窮への対策になる
- 法律上の平等では保険金が加味されないため、より多く財産を渡すことが出来る
- 非課税規定もあるので、税負担も軽減される
などの理由で、本当に財産を遺したい相手に対して効果的に財産を渡すことが可能となります。
但し、あまりに不公平すぎると含まれるケースも
生命保険金の取り扱いすごくいい!預貯金全部生命保険金にして1人に相続させよう!
など、生命保険金であってもあまりに不公平な場合には、遺産分割の際に考慮するケースも出てくるので注意です。
生命保険金は、当面の生活費が確保できるので精神的負担を和らげる
遺産分割が整うまで、基本的に凍結された口座からお金は引き出せない
亡くなった方の口座を凍結した場合、遺言や遺産分割後、名義人変更などの手続きを済ませなければお金は引き出すことが出来なくなります。
亡くなってからしばらくは凍結せず、ある程度のお金を確保してから凍結することも出来ますが……
相続人間で仲が悪いと、凍結をされるケースも
相続人間で仲が悪い場合、「勝手に預金を使用される!」という想いから、口座凍結を早めるケースも。
生活の基盤が亡くなった方の預金口座の場合、一時的に生活費が困窮することも。こうなると、手元のお金が少なくなり、金銭的な面からも精神的な負担が大きくなってしまいます。
但し、2020年7月から、一定額までは凍結後の口座からも引き出せるようになっています。
遺産分割をしなくても自由に使えるお金を手にすることが出来るというのが効果的
預貯金を凍結され、手元にある自由に使えるお金が少なくなると、どうしても精神的な負担が大きくなってしまいます。
しかし、生命保険金は、遺産分割をしなくても取得者が自動的に決定されるため、手続きをすればかなり早期の段階で手許にお金を確保することが可能。
遺産分割がうまくまとまらず、生活費が足りなくなるケースに対して対策が出来ます。
生命保険金により当面の生活費が確保できるので、遺された相続人にとってはかなりの安心感になるのではないでしょうか。
まとめ
- 生命保険金は、受取人が自動的に取得者になる
- 生命保険金は、遺産分割の対象にならない
- 遺産分割が完了していなくても受け取れるので、当面の生活費を確保できる
このページの執筆者
立川の個人・相続税特化の20代税理士 藤本悟史
※内容に関する法令等は、更新日による施行法令を基に行っております。