前回・前々回は、消費税の納税義務者の特例について解説していきました。
2年前の売上が1,000万円以下であっても、消費税の納税義務者に該当する場合がある……特に、前回解説した相続に係るものについては、突発的に発生するもので、負担も少なくありません。
それでは、他に特例はないのでしょうか。
Contents
簡易課税制度という、消費税の事務負担を和らげる制度がある!
概要
消費税の計算方法は
- 原則課税
- 簡易課税
の2種類があり、条件によって自由に選択することが可能です。
メリットデメリットなどについて、詳しくは以下の記事を参照していただければ嬉しいです。
でも届出の本来の提出期限は……?
簡易課税の適用を受けるためには、受けたい年の前年中に届出書を提出しなければいけません。
相続が起こった年から簡易課税を受けたいと思った場合、相続が起こる前年中に届出書の提出をしなければいけないと、一見、適用を受けるのはほぼ不可能なように見えますが……?
実は、相続が発生したら簡易課税制度を受けることが可能な特例がある
急な消費税の事務負担を和らげよう
今まで事業を行っておらず、相続という突発的な事例により急に消費税の納税義務者に該当することになった場合、相続と合わせて、精神的・事務的な負担は重大なものになってしまいます。
そこで、消費税では、相続があった場合に、条件を満たせば、相続人も簡易課税の適用を受けることが出来るようにする措置が設けられています。
簡易課税の方が事務的な負担を和らぐことが多いので、積極的に検討するようにしましょう。
提出期限と適用開始は?
本来の提出期限は前述の通り、前年中に提出しなければいけませんが、相続があった場合の特例を適用する場合には
相続があった年中に届出書を提出することで、相続年から簡易課税の適用を受けることが可能になります。
例:2020年3月に相続があり、この特例の適用を受けることが出来る場合で2020年8月に簡易課税の届出書を提出した場合、提出した相続人は2020年から簡易課税の適用を受けることが出来る。
亡くなった方が簡易課税の手続きを行っていても承継されない!
亡くなった方が簡易課税の適用を受けている場合でも、相続人の方は改めて届出書を提出しなければいけません。
亡くなった方が行った手続きが自動的に引き継がれる訳ではないので注意です。
相続があった場合の簡易課税制度の特例について
概要
相続により事業を承継した相続人について、以下の条件を満たせば、相続年より簡易課税の適用を受けることが出来る。
届出適用開始時期の要件
次のいずれかの条件を満たすこと
相続人が相続開始時点まで会社員でいた等、相続により初めて事業を開始した場合
特に条件はなく、適用を受けることが出来ます。
相続人が相続開始前から個人事業主でいた場合
次の要件の全てを満たすこと
- 相続人の2年前の売上が1,000万円以下など、消費税の納税義務者でないこと
- 亡くなった方が簡易課税の適用を受けていること
判定金額の要件
亡くなった方の2年前の売上が5,000万円を超えていないこと(超えていた場合には、そもそも簡易課税の適用を受けることが出来ない)
届出提出期間
その相続があった年中
適用開始期間
相続年から開始
ここまでまとめ
- 相続があった場合には、簡易課税の適用開始時期に係る特例がある
- 条件を満たせば、相続開始年中に届出書を提出することで、その年から簡易課税を受けることが可能
- ざっくりとした条件としては、相続人が消費税の納税義務者ではないことが1つの基準となる
簡易課税の判定金額については、亡くなった方は考慮しない
概要
簡易課税制度は2年前の売上が5,000万円以下であれば適用を受けることが可能です。
納税義務者の判定の際は、亡くなった方の売上の考慮していましたが、簡易課税の5,000万円判定の場合には、考慮せず、相続人の売上のみ考慮するので注意です。
相続開始年・翌年及び翌々年の判定金額
相続人の方の2年前の売上が5,000万円以下であること
例1相続年:亡くなった方の2年前の売上が6,000万円・相続人の方の2年前の売上が3,000万円
相続人の方の売上が,5000万円以下のため、簡易課税制度の適用を受けることが出来る
例2翌年:亡くなった方の2年前の売上が6,000万円・相続人の方の2年前の売上が3,000万円
相続人の方の売上が,5000万円以下のため、簡易課税制度の適用を受けることが出来る
例3翌々年:亡くなった方の2年前の売上が6,000万円・相続人の方の2年前の売上が1,000万円
相続人の方の売上が,5000万円以下のため、簡易課税制度の適用を受けることが出来る
それ以降
それ以降については、相続人の方の2年前の内容が、全て亡くなった方の事業を引き継いだ後の内容になります。
亡くなった方の事業の規模が大きいと、それ以降は売上が5,000万円を超える場合もあるので、注意が必要です。
まとめ
- 相続があった場合には、相続年から簡易課税の適用を受けることの出来る特例がある
- 簡易課税のメリットとして、事務負担が軽減される点がある。
- 簡易課税の判定金額については、特例はない
このページの執筆者
立川の個人・相続税特化の20代税理士 藤本悟史
※内容に関する法令等は、更新日による施行法令を基に行っております。