コラム

税制改正の歴史から感じる後の世代に引き継ぐべきもの

こんにちは。立川のネコ好き税理士藤本です。

先日、国会図書館に行った際にこんなことを書きました。

変遷の歴史が積み上げてきて今がある

最新の情報を確認することと、過去の情報を確認することは同じくらい大切だと私は考えています。

最新の情報は、懸念点や改善点、問題点と言った過去の積み重ねを鑑みて現在に至っています。

特に、税金関係では、過去の歴史の積み重ねにより、現在の複雑な税制に至っている部分があると感じています。

これを受けて、過去にどんなことがあって、今現在どんな税制に至っているのかを少しだけ紹介しようと思います。

良い改善や悪い行いに対するブロックなど、改正は様々な点から行われています

一口に、過去の積み重ねで現在の税制に至っているといっても

  • 納税者の負担を減らす方向での改正
  • 納税者がずるい行為をしたことにより、それを防ぐための改正

など、税制によって様々な歴史があります。

納税者の負担を減らすために行われた税制改正

シングルマザー・シングルファザーの負担を減らすために作成されたひとり親控除

令和2年、今年から新設された所得税の減税規定である「ひとり親控除」

趣旨としては、以前の婚姻関係の有無に限らず、1人で子どもを育てている方に対する税負担を軽減しようというものでした。

以前は、離婚によって1人で子どもを育てている場合には減税規定を受けられたのですが、婚姻関係を結ばずに子どもを産み育てていた場合には受けることが出来ませんでした。

両者とも、平等に税金負担を軽く出来るよう、ひとり親控除の規定が新設されました。

消費税の二重課税を減らすために廃止された消費税

消費税が導入される以前、「特別地方消費税」という税目がありました。現代の消費税とは異なり、特定の職種のみに対して課される消費税というようなイメージです。

現行の消費税導入後も並行して課税されていましたが、現行の消費税と合わせて二重課税ではないか、との声などから、廃止されました。

配偶者の保護のために新設された、相続に係る配偶者居住権

配偶者の生活保護のために新設された、相続の配偶者居住権。これは実は税法ではなく、民法での規定なのですが。

親子で仲が悪い場合等、自宅を相続により取得することで、預貯金などの生活費の相続分が減ってしまう懸念がありましたが、この規定の新設により、新しい選択肢が生まれました。

但し、相続税の申告に関して言うと計算が結構複雑だったりと、以前より少し大変になりました。

過去に行われたちょっとずるい行為を防ぐために行われた税制改訂

消費税の居住用賃貸建物の仕入税額控除の制限

今年の10月1日より、居住用賃貸建物については、消費税の仕入税額控除の適用が不可になりました。

上記の取り扱いが制定された背景には、以下のような消費税の還付スキームとの奮闘という長い歴史があります。

“→調整対象固定資産の調整制度導入
→納税義務・簡易課税制限
→高額特定資産
→高額特定資産の棚卸調整
→金の売買に関する規定→居住用賃貸建物の対する制限”

本来は仕入税額控除の適用を受けることの出来ない居住用賃貸建物を、どうにかして仕入税額控除の対象にして消費税の還付を受けようという動きが長年あったんですね。

それを繰り返しいった結果、遂に居住用賃貸建物に対して直接ブロックする結果になりました。

相続税・贈与税における資産の国外移転による制限

過去、相続税・贈与税において、国内に住所を有していない方に国外財産を引き継いだ場合、日本の相続税・贈与税は課税されませんでした。

これを利用して、子どもを国外に移住させて(当時の)制限納税義務者にしたうえで、国外財産を子どもに贈与することで贈与税の負担を回避する行為がありました。

これらを鑑みた結果、現在では

  • 日本に住所がなくても、日本国籍を持っていて過去10年以内に日本に住所を持っていた場合
  • 日本に住所がなくても、日本国籍を持っていなくても、財産をあげた人が日本に住所を持っていた場合

などは日本の相続税・贈与税が発生するようになりました。かなり複雑化しており、入念な検討が必要となる結果になりました。

どちらかというと、ずるい行為に対するブロックにより税制の複雑化が進む印象

税制改正には、上記のように、納税者の負担を減らすものと、ずるい行為に対するブロック等々があるのですが、税制の複雑化はどちらかというと、後者により引き起こされることが多い印象です。

ずるい行為を防ぐために「そんな行為するの?」というような内容に対して細分化されていく印象ですね。

ずるいことを繰り返していったツケは後ろの世代が払う

上記のことを行った、ちょっとずるい人達は影響を受けない

消費税の居住用賃貸建物の制限など、今現在、色々と複雑化していったり不利な税制が出来たりしていますが

これらの原因を作ることになった人達はこれらの影響を受けていません。

これらの影響を受けるのは、ずるいことをしていない後ろの世代限定なんですね。

ずるい行為が横行しなければ、上記の規定の複雑化はなかったかもしれない

これは結果論ではありますが、ずるい行為がなければ、一部の税制もここまで複雑化しなかったかもしれません。

こういった、ちょっとずるい行為の歴史の積み重ねによって、後ろの世代が複雑な税制と向き合わなければいけない、そう思うと、少しやるせないですね。

後ろの世代に引き継ぐものを決めるのは、今の現役世代

ちょっとずるい行為は、大企業や大資産家だけが行っている訳ではない

居住用賃貸建物の制限など、ちょっとずるい行為は大企業や大資産家が行ったものに目が行きがちですが、実は、より広い範囲で行われているものもあります。

ふるさと納税の制限は、会社員も含めた色んな方の行為が試された

最近流行りのふるさと納税。寄付の中でもとても優遇された税額控除や確定申告を行わなくても良い配慮など、会社員の方含めてかなり使いやすく整備された規定でした。

この規定に対して、返礼品として似つかわしくないものを用意したり、それを利用する行為などが発生。

その行為が横行した結果なのかは定かではありませんが、昨年、ふるさと納税の返礼品の還元率に対して制限がかけられました。

持続化給付金の不正受給という例も出来てしまった

この頃摘発されている行為として、持続化給付金の不正受給問題があります。

持続化給付金は、新型コロナウィルスの影響により苦境に立たされている事業者に対する補助として発足され、より早く手元に資金が届くような内容にしてありました。

今現在、その内容を利用して不正受給した方が摘発され、返還サイトが出来る事態に。

持続化給付金のような制度を作ったら、不正受給が出てしまった例が出来てしまった訳ですね。

もし、今後同じような事態があった際に「持続化給付金という過去の例で不正受給が出たから、複雑なものにしよう」と、今回の件を鑑みて設定する可能性が出てきてしまう訳です。

後ろの世代に財産を遺すなら、負の財産ではなく良い財産を遺したい

納税者の負担を減らす改正も起きるし、ずるい行為をすれば納税者を制限する改正が起こる

ひとり親控除のように、時代に合わせた納税者の負担を減らす改正が出来ることもあれば、消費税の居住用賃貸建物の制限といったずるい行為に対する納税者を制限する複雑な改正も起こります。

どうせ、後ろの世代に税制改正を残していくなら、ずるい行為によって出来た負の財産ではなく、より平等になるように制定された良い財産を遺したいですね。

このページの執筆者

立川の個人・相続税特化の20代税理士 藤本悟史

※内容に関する法令等は、更新日による施行法令を基に行っております。